彼とは鎌倉で出会いました。

その見事なパンク・スピリットに僕は感動し、畏敬の念を込め、ストラマーと名付けました。

あらゆる体制側を攻撃する過激な表現とは裏腹に、表情は竹林の七賢の御一人かと見紛うばかりに、虚無と静謐に満ちています。ショーペンハウエルを読んだあと、人はこういう顔つきになるようですが、はたして彼は何を見てきたのか。

「あなたは法と戦ったのですか。そして法が勝ったのですか?」

訊いてみたのですが、憂愁のパンク・ロッカーは黙して多くを語りませんでした。返答としての「みぃ」の一声から我々は察し、学ぶしかありません。

彼は、体制を覆すためには、現状を破壊するには、皮肉にも、こちら側にこそ秩序が存在していなければならないことを知っているようでした。その黄金比で構成される凛とした姿勢からは、保身のための醜悪な秩序は一切見受けられません。美しく、気高い、聖戦のための秩序を全身で表現しているようでした。

一時間ほど前に購入した煮干しを与えると、たちまちにして反骨は霧散し、ホワイトライオットは消滅しました。しかし、目先の欲望に耐性のあるパンク・ロッカーなど信用なりませんので、「これはいよいよ本物だ」と僕は呻き、煮干しのお礼を頂戴せんと、肉球と尻尾を存分に触らせて頂きました。その後、僕は鶴岡八幡宮に参拝、あのやたら長い階段で転落し帰らぬ人となったのです。